猫の性格

 ここ1ヶ月くらい、マロン(オス・年齢不詳)の性格が変わり始めています。
 マロンは我が家に来たとき、すでに成猫で、性格も非常に安定していました。
 ボランティアさんのキャリーから出た直後から、まるで昔からうちで暮らしていたかのような落ち着きぶりで、初対面なのに逃げることも威嚇することもなく、用意しておいたトイレを見つけると、当たり前のようにそこで用を足し、緊張している様子はまるでありませんでした。
 マロンはボイスレスキャットで、ほとんど鳴きませんでした。
 鳴くとしても、本当に小さい声で、「にゃん」程度。
 来客があっても人見知りせずに寄っていくし、窓の外を野良猫が通っても、威嚇することはありません。二匹目のゆずが来たときも、ボランティアさんがびっくりするくらい、はじめからウエルカムで、縄張りを主張することもありませんでした。
 本当に穏やかで控えめな猫で、飼い主としては、若干物足りないほど。ゴロゴロも控えめ。数ヶ月に一度、まるでご褒美のように、チロチロと手を舐めてくれることはありますが、それもすぐにやめてしまいます。呼んで来てくれることも滅多にありません。もっと自己主張してくれれば良いのだけれど、まるでぬいぐるみのように、いつもじっと佇んでいます。それは時々、「うちにはペットがいないのではないか?」と感じるほどで、ゆずを貰おうと思った遠因にもなっています。
 手がかからないのは良いのですが、ほとんど甘えてこないし、人間に対しても無関心で、餌を用意してトイレを綺麗にしてくれる存在としてしか見ていない感じがしました。マロン自身、どこか悟ったようなところがあり、「朝が来て、夜が来て、食べて、寝て、人生なんてそれだけだ」というような顔をして、哲学者然としています。「猫がいたずらをして困る!」という人の話を聴くと、羨ましく思ったりもしました。
 一方のゆず(メス・2歳)は、マロンとはまるっきり正反対の性格で、ピーピーと自己主張が激しく(ドア開けろ!、餌よこせ!、抱っこしろ!、遊べ!)、近寄ってきては痛いくらいに手を舐め、ときどきストーカーのようについてまわり、座っていると自分から膝にのってきてゴローンと寝てしまいます。抱っこも大好き。マロンは抱っこが好きではなく、抱っこすると、気を使ってしばらくはじっとしているのですが、しばらくすると「もういいでしょ。おろしなさいよ」という目をして、もぞもぞします。
 ゆずは少し撫でてあげるだけで、すぐにゴロゴロいいます。忙しくて無視していると、背伸びして右前脚で、「ちょんちょん」と、まるで人間が「ちょっとちょっと」と肩を叩くように、僕の脚を叩きます。呼べば返事をして、しっぽを立てて走り寄ってきます。縄張り意識も強く、窓の前に野良猫が通ると激しく威嚇し、マロンの場所は片っ端から占領。来客があると、おびえて隠れてしまいます。
 で、そのマロンなのですが、もう性格が変わることはないと諦めていました。ゆずは子猫から飼っているので、性格の変化がいろいろありましたが、マロンは来たときから5年間、全く性格が変わっていないし、これ以上なつくこともなければ、嫌われることもありませんでした。これがマロンの性格だし、小さなゴロゴロも、本当にときどきチロチロと舐めてくれるのも、カリオストロの城に忍び込んだルパン3世のように、「今はこれが精一杯」なのかもしれない。甘えるのが下手な、優しさに似たロケンロールなのです。
 マロンは殺処分されそうだったところを、ボランティアさんに「この子ならばもらわれるはず」と救われた猫で、詳しいことは知りませんが、大変な過去を背負っている感じがします。だから、ありのままのマロンを、そのままで愛そうと思っているし、いてくれればそれだけでありがたい存在です。ゆずが悪いことをすると本気で叱るし、頭に来ることもあるのですが、マロンは何をしても、「そのままでいいんだよ、マロン」という気持ちになるのです。
 それが最近、どうもマロンが変わってきたのです。
 まず、よくしゃべるようになりました。昔は鳴いても「にゃん」という小さな声でしたが、今は結構大きな声で、うにゃうにゃ言います。ゆずのように、何か要求があるわけではなく、まるでひとりごとのように、うにゃうにゃしゃべるのです。
 そして、呼ぶと結構きてくれるようになりました。今までは「どうせ用なんてないんでしょ」というクールな感じで見つめるだけで、動きませんでしたが、今は呼ぶと、寄ってきてくれることが増えました。
 更に、一番の変化は、自分から甘えに来ることです。パソコンの前にいると、ぴょんと机の上に載って、スリスリと体をよせてきます。キーボードを打っている手を優しく舐め、僕の方を向いて箱座りして、「僕がそばにいるからね」って励ましてくれているみたいに、ずっと居てくれます。ゆずは気まぐれで、眠くなるとどこかへ消えてしまいますが、マロンは僕が起きている限り、机の上や、マロン専用座布団の上で、待っていてくれます。
 それはもう、「マロン、一体どうしちゃったの?」、という変化で、もちろん嬉しいのですが、理解のできない、突然の変化です。
 やっと僕の愛がマロンに伝わったのか、それとも死期が近いのか、はたまた、ゆずを観ていて甘えることを覚えたのか……。
 ゆずは気まぐれで直接的なツンデレですが、マロンはもっとずっと高度なツンデレで、最近、マロンにメロメロです。

<< エッセイ
<< HOME  ↑TOP↑  ご予約 >>

Copyright © Naoya Sakurai.
All Rights Reserved.