プラス思考について

プラス思考の人間って、マイナス思考の人間よりも世の中に害を与えることが多い気がします。

何故かと言えば、必要な反省をしないからです。

落ち込んで、後悔して、クヨクヨする時間を過ごして初めて、人は経験から何かを学び、少しだけ人間が大きくなれるのです。しかしプラス思考の人間は、ときどきそれを飛ばしてしまいます。

1万円が財布に入っているとき、「1万円しかない」と考えるのがマイナス思考、「1万円もある」と考えるのがプラス思考と言われますが、何でも良いように考えればそれでいいわけではないのです。

状況によっては「1万円もある」等と悠長なことを言っていないで、「1万円しかない」という危機感を持つことは重要です。

大学の頃、「私は時間に縛られたくない」と言って時計を持ち歩かない教授がいました。

それはそれでひとつの生き方であり、多感な学生たちは「あの教授はやっぱり違う」的な尊敬の眼差しで彼を見ていましたが、彼の研究室の生徒たちは、彼が時計を持たないことでずいぶん苦労をさせられていました。

僕はプラス思考という言葉を聞くと、いつもこの教授を思い出します。彼の「時間に縛られない」という生き方は、周りの人に迷惑を撒き散らすことによって守られていたように、プラス思考の人たちの送っている幸せな暮らしは、周りの多くの犠牲の上に成り立っているのではないかと、そんな気がするのです。

もちろんそんな風に周りをいい意味でも悪い意味でも巻き込める人間がいるからこそ、結果的に世の中がいい方向へ変わっていくことがあるのも事実です。でもそれは一握りの選ばれた人間だからこそできることであって、凡人のプラス思考はひとつ間違えれば秩序を乱すことにしかなりません。

プラス思考の人間って、カレーライスの中の福神漬けくらいの割合でいることが理想的。もしこの国の人間が全員プラス思考だったら、この国はとっくに滅びていたことでしょう。

僕はマイナス思考こそ素晴らしいとか、プラス思考はけしからんとか言いたいわけではありません。

大切なのは、プラス思考でもマイナス思考でもなく、目の前の状況をありのままで判断できる冷静な目だと思うのです。

あ、でも個人的にはプラス思考の人はちょっと苦手。マイナス思考の人といると何だか落ち着きます。

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